He has just passed away

どこに書こうかと思ったのだけれど、
できるだけ消えないようなところに残しておきたくて、
思い出したのがここだった。

 

今日(2019/04/23)の21時07分、最愛の猫が亡くなった。

自分のプロフィールでアイコンにしている子だ。

最後はみとれなくて、仕事終わってどうしても呑みに行きたくて同僚と出かけた先で
親からの一報を受け取った。

 

彼は20年前、突然我が家に来た。

友人が「親が猫拾ってきたんだけど見に来る?」と言われて家に見に行くはずが、
待ち合わせした駅には籠に入れられた猫と友だちとその親が現れ、
「トラ猫なので」と言われて虎屋の紙袋に入れられてそっと渡された。

 

何も用意などされていない我が家。
「とりあえずトイレは洗面器に新聞紙をちぎって入れておけばいいから」と言われ、
途方に暮れながら新聞紙をちぎっていたら、
「なにそれあたらしいあそび?」とでも言いたげに、
一緒に新聞紙をバリバリしてくれた。

 

愛らしい青い瞳は、それまでペットを飼うことに反対していた父親を瞬殺した。
あんなにとろけそうになった人間の顔を、私はいままで見たことがない。

 

もらってきたミルクの粉の缶には、
「猫は1年で20倍に大きくなります」と書かれていた。
はたして手のひらに載るサイズだった小さな小さな子猫は、
1年後には見る影もないたくましい骨太どっぷり男子に成長した。

 

それまで猫を飼ったことがないネコ好きの私は、
猫はみんな可愛いものだと思っていた。
まして自分の家の猫なら、可愛くて当たり前だ。

そうではなくて、この子は本当に美形なのだと、はっきりと理解するまでには
10年以上の月日が必要だった。

 

顔の半分以上はあるかのような大きな瞳。

瞳と同じくらい印象的な大きな耳。

横からでもくっきりとわかるツンとした鼻筋。

身体が大きい分だけどこまでも横に伸びる立派なヒゲ。

ベンガル系のがっしりとした長い手足に、キジトラ柄のつやつやな毛。

完璧すぎる物は天に召されてしまうから、地上に居るために与えられたとしか思えないねじ曲がった短い尻尾。

 

どれもこれも、美しいとしかいいようがない生き物。

 

鼻筋と同じくらい、凛としたプライド。

嫌なことは嫌と言い、けれど美味しい物をねだるときだけは全力で上目遣いをする。

そして手に入れた瞬間に、それまでのことなどなかったことになる。

なでて、なんて決して言わないけれど、なでている間はまんざらでもない顔をする。

そしてなでるのをやめると文句を言う。

普段は人間がすり寄ってくると嫌がるくせに、こっちが弱っているときだけはそっとそのまま逃げずにそばにいてくれる。

人間の布団が好きで、でも一緒に布団の中で寝るのは絶対に嫌で、

でもご飯が食べられなくなってきてから、素直に布団の中に入るようになった。

人間の腕にそっと顎を乗せて、軽い身体をあずけて眠るようになった。

 

かっこいいね、とか、かわいいね、という声にはまんざらでもない顔をして、

大好きだよ、という声には少し照れたように目をそばめたりした。

年を取るごとに少しずつ素直になって、

I love you と言ったら、そっとキスをしてくれたこともあった。

なんという破壊力…!

 

ご機嫌なときには鳴らす喉が、

少しずつ弱って鳴らなくなって、

それでも「大好きだよ」といえば、

鼻をすするような「ずずっ」っとした息をする音がして、

ちゃんとわかってるんだ、つたわってるんだって、うれしくさせてくれた。

 

最初にご飯が食べられなくなってから1年半、

ちゃんとずっと愛する時間を、

大切にさせてくれる時間を、

お別れをいう時間を、

きみはぼくにくれました。

 

お別れのときは、自分は置いて行かれてしまうんだと、ずっと思っていたけど、

実際は風船がしぼむように、そっと、そうっと、

少しずつ消えていくのだと、

教えてくれました。

 

息を引き取った後も、

綺麗な瞳は大きいままで、

何も変わってなどいないかのようで、

私の大好きな姿のまま、きみはいてくれました。

 

ぜんぶぜんぶ、ちゃんとわかっていて、

かしこくて、やさしくて、きみはやっぱりかみさまでした。

 

これは私ときみだけの秘密。

ずっとずっと子どもの頃、私が生きているのがつらいときに、

かみさまは私の夢の中で、そっと力を貸してくれることがありました。

あるときかみさまは私に、二人の王子様のどちらがよいか、と尋ねました。

一人は金髪で、一人は黒髪でした。

黒髪短髪がストライクな私はなぜか、

そのとき金髪の王子様を選びました。

王子様は「選んでくれてありがとう」と、そっと私の鼻にキスをくれました。

あのときの王子様は、きっときみで、

そのとき以来ずっと、きみは私の王子様で、

弟で、息子で、恋人で、旦那で、先生で、主人で、救世主で、世界のすべて。

(ちなみに黒髪の王子猫が我が家に来るのは、それからもっとずっと後のお話)

 

明日からきみのいない朝がくるなんて、とても想像できなくて、

毎朝カーテンをあけるたびに気にしていたきみの居場所にきみがいないとか、

家に帰って寝顔を見に行くこともできないとか、

色のない世界が自分に訪れることなんてまるで実感がないのだけれど。

 

たぶん、怖がりな私が怖くないように、

先に天国に行ってくれていて、

いつかその日が来たら、待ってなんていなかったよ、って

いつもみたいな顔で

「やぁ」とだけ、言うんでしょ。

 

きみがお見本を見せてくれたように、

ぼくもいきてみるよ。

待ってなんてなくていいから、

会えたときにはそのまっすぐな大きな瞳でぼくをみて

「やぁ」って、言って。

 

「秀太くん、大好きだよ」って、私は変わらずに言い続けるから。